【テーマ】「産業界に資するイノベーション教育とは何か」- 大学における教育改革と将来のイノベーション教育のあるべき方向性 -
イノベーション教育学会の年次大会は第4回目を数え、この度は、2016年6月に東京工業大学にて開催することとなりました。今回は、東京工業大学EDGEプログラムである「チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(通称CBECプログラム)」との共催となることもあり、産業界に資するイノベーション教育とは何かを問い、大学における教育改革と将来のイノベーション教育のあるべき方向性について議論するため、各機関が行っている先進的なワークショップ事例発表や、イノベーション教育の最新事例発表の機会も設けました。また、新しい試みとして、イノベーション教育科学研究部門の発表機会を初めて設けました。教育関係者はもとより産業界からも多くの方々、機関がご参加されることを期待しています。
▶開催概要(参加方法と公募情報)
教育現場での新たな取り組みとして,文部科学省グローバルアントレプレナー育成事業(EDGEプログラム:Enhancing Development of Global Entrepreneur Programの略)の一環である東京工業大学チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(CBECプログラム:Cross-Border Entrepreneur Cultivating Programの略)における取組を報告し,その2015年度における実践で得た知見を共有する.本発表では,主に,1年間にわたり実施した「デザイン思考」をベースにした異分野共創型エンジニアリングデザインプロジェクト授業群について報告を行い,教育効果と実施における課題についての話題提供を行う.
共同研究者:武田隆太、塚越光、楠晴奈、齊藤想聖(株式会社リバネス研究キャリアセンター)、西條美紀(東京工業大学)
発表要旨:博士課程教育リーディングプログラムは、「産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成することを目的とした事業」である。プログラムの自立化には、産業界を巻き込み、教育プログラムに参加した学生が実社会で活躍するためのステップを明確にすること、そして継続的に実施するしくみを作ることが求められている。発表者らは、2014年より大学等研究機関の研究者による事業化支援を目的としたシードアクセラレーター事業「テックプランター」を運営しており、多くの事例を追跡してきた。その中にはリーディングプログラムへの参加学生による起業および事業化を支援した事例もあり、このようなプログラムに参加する学生のポテンシャルが高いことを経験的に承知している。しかし、彼らが将来グローバルリーダーとして活躍する人材となるためには、ビジネスマインドの醸成、研究経験・研究成果を社会課題解決に結びつける構想力、構想を可視化して異なる意見を取り入れながらアイデアを再構築していく対話力と構築力の育成が必要であると考える。
本発表では、リーディングプログラムに在籍する学生を対象とした1日の教育プログラムの実践についてのモノグラフを提示し、それに基づく上記のような人材を育成する教育メソッドを提案する。具体的には、平成28年3月に東京工業大学が主催となり、リーディングプログラムの学生を集めた「第1回ビジネス構想コンペティション」を実践研究の事例とする。このプログラムでは、彼らが(1)アカデミックな研究人材以外とプロジェクトを遂行する機会が少ないこと、(2)研究の実用化・事業化プロセスに触れる体験をアウトプットする場(リアルな社会課題解決の実装の場)が少ないこと、(3)上の経験でのみ得られる産学連携(または多様なステークホルダーを巻き込んだ形)でのプロジェクトマネジメントの経験が少ないことを、学生の抱える課題として設定し、実践的にこれらの経験を積むことができるワークを設計・試行した。 本ワークでは、学生(リーディングプログラムに所属する学生 7大学10チーム22名)に対し、実際にビジネスデベロップメントに関わっている企業人(ベンチャー・大手企業15社20名)をメンターとして招聘し、学生の提案内容の「破壊と再構築」を行うという新たなメンタリングの手法を考案し、実施した。発表では、事前課題と当日ワークの詳細、当日アンケート結果、実施後の学生の追跡調査を元に、大学教員と企業人との共同による新たなイノベーション人材教育の方法を提案する。
日本の企業や学術研究の現場でなぜ大きなイノベーションが生まれにくいのか。本講演の問題意識はそこにある。企業の事例と実証データを用いて研究者と実務家の両方の視点から論じる。
講演者が特に注目しているのは、ユーザーイノベーションという現象で、自身の実務家時代の経験が誘因になっている。1990年代、企業側が呼び出し専用機器と考えていたポケベルを若いユーザーが「公衆電話に暗号を打ち込む」というアイデアで双方向コミュニケーションツールへと変えたのが一例だ。ユーザーイノベーションが企業側の開発を思いもよらぬ方向へ導き、企業現場でのカイゼン活動がそれに呼応する。そこに日本企業の強みがあったと考えている。にもかかわらず、その後、生活者を起点とするカイゼン活動への経路は遮断され、企業内部のみに目を向けたカイゼン活動、発明型技術革新への過信、カリスマ経営者の待望ばかりが強化され、日本企業の弱体化が始まったのではないか、というのが、講演者の主張である。日本の現状のイノベーション教育にも同様の危うさが存在している。「イノベーションの誤解」を克服できる人材の育成が喫緊の課題と考えられる。